研究内容

塩基の転写後修飾による制御

選択的スプライシングにより発現量が制御される線虫の代謝関連遺伝子の中で、S-アデノシルメチオニン(SAM)合成酵素遺伝子sams-3sams-4は、SAM合成酵素活性によるフィードバック制御を受けていました。

SAMは、タンパク質、核酸、脂質などの生体分子のメチル化反応においてメチル基の主要な供与体としてはたらきます。そこで、メチル化を介した間接的制御の可能性を探索したところ、メチル化酵素METT-10が摂食によるsams-3sams-4の選択的スプライシング制御に必須であり、sams-3sams-4のmRNA前駆体で選択的スプライシングを受ける3'スプライス部位のAGのAを組換えMETT-10タンパク質が試験管内で特異的にN6メチル化(m6A)修飾すること、内在性のsams-3sams-4の成熟mRNAのほとんどでその3'スプライス部位がm6A修飾されていることを見出しました(EMBO J, 2021)。

これらの結果は、図のように、METT-10によるsams-3sams-4遺伝子mRNA前駆体の3'スプライス部位の特異的なm6A修飾により選択的スプライシングが制御され、SAM合成酵素の発現量がフィードバック制御される、という、低分子量の代謝産物による間接的なスプライシング制御を介した代謝酵素の恒常性維持機構の存在を示しています。3'スプライス部位のm6A修飾によるスプライシングの抑制は予測されていたもののそれまで実例が知られておらず、全生物を通じて初めての発見となりました(EMBO J, 2021; プレスリリース)。