研究内容

はじめに

ヒトを含む真核生物では、DNAから転写されたRNAがプロセシング(加工)を経て成熟したメッセンジャーRNA(mRNA)となります。この転写後プロセシングの過程で、細胞の種類に応じた選択的な制御を受けることにより、ひとつの遺伝子からでも必要に応じて多様なタンパク質が産生されます。ヒトでは、タンパク質遺伝子の実に9割が複数種類の成熟mRNAを産生することが明らかになっています。


このように、転写後プロセシング制御機構の解明は、これまでによく研究されてきた転写調節に勝るとも劣らない重要な遺伝子発現制御研究であるといえます。

ヒトの疾患の原因として報告されるタンパク質遺伝子の突然変異には、タンパク質の機能を損なうものが多く含まれます。一方で、タンパク質の翻訳に至る前のmRNAの転写後プロセシング過程に大きく影響するものも15~50%は存在すると考えられています。したがって、タンパク質のコード領域を主に解析するエキソーム解析では見落とされたり、全ゲノム解析でも見過ごされたりしていると考えられます。

今後、患者個人の全ゲノムの解読が進むにつれ、疾患研究における遺伝子変異遺伝子多型の影響の予測と実験的な評価がますます重要になってくるでしょう。

当講座では、DNAから転写されたmRNA前駆体が組織特異的・発生段階依存的に多様な成熟mRNAとなるための転写後プロセシングの「細胞暗号」の解明と、RNAプロセシング制御因子や翻訳装置の異常に起因する疾患の病態発現機序の解明および治療法の開発を目指して、研究を展開しています。