研究内容

1. 視床下部神経細胞での, GnRH 受容体刺激により活性化される細胞内情報伝達機構

視床下部には, ゴナドトロピン放出ホルモン (GnRH) を放出する神経細胞 (GnRH ニューロン) が存在します。 GnRH ニューロンから放出される GnRH は下垂体前葉のゴナドトロピン産生細胞に作用して, FSH と LH とよばれる二種類のゴナドトロピンの産生と放出を促進させます。 GnRH の放出パターンの変化により, ゴナドトロピン産生細胞からの FSH か LH のどちらかの放出が増加します。 FSH と LH の血中の濃度変化が女性の性周期を形成しますので, GnRH の放出パターンの変化は, 女性の性周期の決定に極めて重要です。このために, GnRH ニューロンには, 様々な神経伝達物質やホルモンの受容体が存在し, GnRH の放出パターンが制御されています。 GnRH ニューロンには, GnRH に対する自己受容体も存在します。この GnRH 受容体は G タンパク質共役型受容体に属します。 GnRH 受容体の刺激により, 細胞膜に存在する EGF( 上皮増殖因子 ) 活性を持つ HB-EGF が細胞膜からタンパク質分解酵素により切り出され, 細胞外に遊離された後に, 自己の持つ EGF 受容体を刺激することが知られています。私達は, GnRH 受容体刺激から HB-EGF の遊離に至る細胞内情報伝達機構を検討してきました。その過程で, GnRH ニューロンには ErbB4 も存在し, EGF 受容体と ErbB4 の両方が HB-EGF により刺激されることを見いだしました。さらに, GnRH 受容体の強い刺激により, ErbB4 が細胞膜上で限定分解を受け, 脱感作されることを見いだしました。見いだした反応は, GnRH の放出パターンに大きな影響を持つ可能性が考えられます。現在, これらの分子機構を siRNA を用いたノックダウン法や複数の酵素の過剰発現系を用いて詳細に検討しています。また, ErbB4 の遺伝子異常は, 統合失調症のリスクファクターであることが知られています。すなわち, 大脳皮質の神経細胞での ErbB4 の分解異常が, 統合失調症の病態生理に関与している可能性も考えられ, 新しい研究の発展も期待されます。

2. RPS19 のリン酸化によるリボソーム機能の調節とダイアモンド・ブラックファン貧血

リボソームは, 4 種類の RNA と約 80 種類のリボソームタンパク質 (RP) から形成されます。 RP の中の RPS19 や RPS24 などの変異により, ダイアモンド・ブラックファン貧血が起こることが知られています。ダイアモンド・ブラックファン貧血は, 先天性に赤芽球の分化が障害された遺伝性疾患です。その 25% の症例の原因遺伝子が RPS19 であることが知られています。さらに, ミスセンス変異部位とタンパク質の立体構造の解析から RPS19 の機能に重要な領域が明らかになっています。私達は, RP の直接のリン酸化によるリボソーム機能の調節機構を検討してきました。その中で, RPS19 が, CaM キナーゼ I αにより強くリン酸化されることを見いだし, リン酸化部位を決定しました。興味深いことに, そのリン酸化部位は, RPS19 の機能に重要な領域に存在することがわかりました。すなわち, RPS19 の機能が, リン酸化によって調節されている可能性に加えて, そのリン酸化の異常がダイアモンド・ブラックファン貧血の病態生理に関与している可能性も考えられます。そこで, 赤芽球系の培養細胞を用いて, RPS19 のリン酸化の細胞分化に対する影響を検討しています。また, 様々な培養細胞を用いて, 細胞周期に応じた核内タンパク質のリン酸化の変化についても検討しています。

3. 肺胞細胞の EMT への MAP キナーゼ系の関与

Epithelial-Mesenchymal Transition (EMT, 上皮間葉移行) は, 上皮細胞が間葉系細胞に変化する現象です。 EMT は発生の過程において重要ですが, 肺や腎臓の線維化や, 癌細胞の浸潤との関連でも注目されています。私達は, 本学の麻酔科学講座と救急医学講座との共同研究で, 肺胞細胞の EMT の分子機構について, 肺胞 II 型細胞の培養細胞を用いて検討しています。まず, NF-kB 系の新しい阻害薬を見いだし, この阻害薬を用いて NF-kB 系の関与について検討しました。現在, EMT の指標である上皮細胞マーカータンパク質の遺伝子発現抑制と間葉系細胞マーカータンパク質の遺伝子発現増加の分子機構についても検討しています。さらに, 本細胞での EGF 受容体の脱感作現象を見いだし, その分子機構についても検討しています。

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